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大阪地方裁判所 平成2年(ワ)3244号 判決 1991年8月26日

大阪市西成区山王一丁目九番七号

原告

北畑実

東京都千代田区霞が関一丁目一番一号

被告

右代表者法務大臣

左藤恵

右指定代理人

前垣恒夫

明石健次

藤井昭夫

木下富雄

村松美律夫

宮岡孝

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は原告に対し、金二億二〇二四万五六八〇円及びこれに対する平成二年五月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件請求は、古物は物品税法ないし消費税法上課税の対象にならないにもかかわらず、国家公務員である西成税務署長ら同署職員、大阪国税局長、後記各裁判担当裁判官らが、その各職務を行うにつき、故意又は過失により、物品税法ないし消費税法の解釈を誤り、古物も物品税ないし消費税の課税対象に該当するとの解釈の下に、原告及びその妻に対し、課税、調査、差押え、告発、起訴、判決等をなし、憲法一四条、八四条等に反して、公権力を行使し、もって、違法に原告に損害を加えたとして、国家賠償法一条に基づき、後記損害及びそれに対する訴状送達の日の翌日である平成二年五月一五日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求めるものである。

一  (原告の地位等)

原告の妻である訴外北畑静子(以下「静子」という。)は、原告住所地において昭和二四年から現在まで古物商を営んできた(以下「本件営業」という。)。そして、原告は、本件営業に実質的営業主体として従事し、大阪国税局管内の西成税務署等の行う本件営業についての税務上の調査・課税等に対しても不服申立てのための対応等に当たってきた(当事者間に争いがない。)

二  (西成税務署長の行為等)

西成税務署長ら同署職員は、古物営業法一条一項に定める古物(以下「古物」という。)であっても、他の課税要件を満たすかぎり、物品税(消費税施行後は消費税)の課税対象になるとの解釈の下に、昭和三四年一〇月ころの管内古物商に対する説明会以降、静子に対し、物品税に関する申告及び納税を求め、また、管内の他の古物商に対しても、古物は物品税(消費税施行後は消費税)の課税対象になる旨指導した。

これに対し、原告及び静子は、古物は、物品税(消費税施行後は消費税)の課税対象にならないとの主張を保持し続け、昭和三六年五月分以降の物品税についての西成税務署長による更正決定等に対し、後記の通り不服申立て及び訴訟により争うとともに、物品税の調査に協力せず、一時期を除いて、自主的な申告及び納税をしなかったため、西成税務署から仕入れ先に対する反面調査等を実施され、西成税務署長及び大阪国税局長から静子名義の土地建物の差押を受け、大阪国税局長から公売予告通知を受けた(当事者間に争いがない。)。

三  (課税に関する争訟の経過)

1  西成税務署長は、静子に対し、昭和四〇年七月一二日付で、昭和三六年五月から昭和四〇年一月までの間の貴石及び貴金属製品等の販売にかかる物品税(加算税、延滞税を含む。以下同じ。)につき課税標準額及び税額の決定並びに無申告加算税の賦課決定(その後一部につき金額を変更する裁決及び昭和四〇年一一月二二日付更正決定がなされた。)をした。

静子は、右各決定ないし裁決の取消を求め、異議申立てないし大阪国税局長に対する審査請求を経て、訴訟(大阪地方裁判所昭和四一年(行ウ)第六号物品税賦課処分取消請求事件)を提起し、古物である貴石及び貴金属製品等が課税物品に含まれるか否かを主な争点として争ったが、昭和四二年三月二八日請求棄却の判決言渡を受け、さらに控訴(大阪高等裁判所昭和四二年(行コ)第二〇号)及び上告(最高裁判所昭和四四年(行ツ)第七三号)したが、いずれも棄却されたため、右判決は昭和四七年一二月一九日確定した(乙一の1ないし3)。

2  また、西成税務署長は、静子に対し、昭和四一年七月一一日付で、前項の決定のうち、昭和三六年九月分、同年一一月分、同年一二月分及び昭和三七年三月分についての課税標準額及び税額の賦課決定、昭和三七年五月分、同年一一月分、昭和三八年二月分、同年四月分、同年五月分及び同年七月分から昭和三九年六月分についての更正決定及び無申告加算税の賦課決定をした。

静子は、右各決定の取消を求め、異議申立てないし大阪国税局長に対する審査請求を経て、訴訟(大阪地方裁判所昭和四二年(行ウ)第二二号物品税賦課処分取消請求事件)を提起し、前記主張の当否を争点として争い、昭和四六年七月一四日請求棄却の判決言渡を受けた。そして、控訴(大阪高等裁判所昭和四六年(行コ)第一七号)及び上告(最高裁判所昭和四九年(行ツ)第七七号)はいずれも棄却され、右判決が昭和五二年二月三日確定した(乙二の1ないし3)。

3  他に、大阪国税局長は、物品税法違反の犯則事件で静子及び原告を告発し、大阪区検察庁検察官は、静子及び原告について、昭和三七年七月ころから昭和四〇年一月ころまでの間、指輪等を小売しながら、物品税法所定の申告書を西成税務署長に提出しなかったとの公訴事実により起訴した。静子及び原告は、右刑事被告事件(大阪簡易裁判所昭和四一年(ろ)第一七八七号物品税法違反被告事件)において、主に古物である右指輪等が課税物品に含まれるか否かの点で争ったが、昭和四九年四月三〇日、静子を罰金一五万円、原告を罰金四〇万円に処する旨の判決言渡を受け、これに対する控訴(大阪高等裁判所昭和四九年(う)第七〇〇号)及び上告(最高裁判所昭和四九年(あ)第二三一〇号)はいずれも棄却されたので、右判決は昭和五〇年三月一〇日確定した(乙五の1ないし3)。

4  さらに、西成税務署長は、静子に対し、昭和五二年八月二七日付で、昭和四九年七月から昭和五一年一一月までの間の貴石製品等の販売にかかる物品税につき更正決定及び賦課決定をした。

静子は、右各決定の取消を求め、異議申立てないし国税不服審判所長に対する審査請求を経て、訴訟(大阪地方裁判所昭和五五年(行ウ)第七〇号、第七二号物品税更正処分取消請求事件)を提起し、古物である貴石製品等が課税物品に含まれるか否かを主な争点として争ったが、昭和五八年九月一六日請求棄却の判決言渡を受け、その控訴(大阪高等裁判所昭和五八年(行コ)第四四号)及び上告(最高裁判所昭和五九年(行ツ)第273号)はいずれも棄却されたため、右判決が昭和六〇年五月二三日確定した(乙三の1ないし3)。

5  西成税務署長は、静子に対し、昭和五七年六月二二日付で、昭和五二年七月から昭和五六年八月までの間の貴石製品等の販売にかかる物品税につき課税標準額及び税額の決定並びに無申告加算税の賦課決定をした。

静子は、右各決定の取消を求め、異議申立てないし国税不服審判所長に対する審査請求を経て、訴訟(大阪地方裁判所昭和六〇年(行ウ)第五九号ないし第六三号物品税決定処分等取消請求事件)を提起し、前記主張の当否を主な争点として争ったが、昭和六二年二月二七日請求棄却の判決言渡を受け、その控訴(大阪高等裁判所昭和六二年(行コ)第一〇号)及び上告(最高裁判所昭和六三年(行ツ)第四六号)はいずれも棄却されたため、右判決が昭和六三年六月一七日確定した(乙四の1ないし3)。

四  (古物に対する物品税・消費税の課税についての原告の主張の根拠)

原告は、物品税法及び消費税法には、古物を課税対象にする旨の規定がないので、原告らに対する前記課税処分、刑事罰等の判決はいずれも違法である旨主張し、その理由は次のとおりであるとする。

1  (租税法律主義)

物品税法(物品税を定める法律は昭和一二年八月一二日法律第六六号北支事件特別税法以降、数次の改正があるが、特に明示しない限り昭和三七年三月三一日法律第四八号を指す。)三条一項所定の「第一種の物品の販売業者」に古物商が含まれるという法律はなく、また、「小売」に、古物を消費者に販売する場合も含まれるとする法律もないから、消費者である原告及び静子が本件営業において取り扱った古物に課税することは、租税法律主義を定めた憲法八四条に違反する。

2  (物品税等の制度趣旨)

昭和一二年の北支事件特別税法案委員会で、大蔵大臣は同税につき、「一回限り課けます、小売の場合に物品税を課けます場合は、卸売の場合は課けません」と答弁しているから、物品税は同一の物について一回限り課税するものである。

3  (物品税廃止に伴う経過措置)

物品税廃止等にともなう経過措置として消費税法(昭和六三年一二月三〇日法律第一〇八号)附則二三条は、課税済品の物品税を返還し、新たに消費税を課税することとしており、物品税は一回限りの課税であることを示している。

4  (課税物品に関する規定)

物品税法三条一項の括弧書の「課税物品に該当するものに限る。」との規定により古物は除かれる。

5  (納税義務者に関する規定)

物品税の納税義務者は、北支事件特別税法二二条、同法附則三項及び同法を改正した昭和一三年四月一日法律第五一号支那事変特別税法五一条並びに昭和四八年法律第二二号物品税法三五条の二その他右と同趣旨の規定から、物品税を定める各法の施行日前から引き続き第一種の物品の小売業を営む者、物品税を定める各法により営業開始申告をした者、物品税の販売業者証明書の交付等を受けた者であって、これらの者が古物を取り扱う資格がないことは古物営業法により明らかであるから、古物商は物品税の納税義務者には含まれない。

6  (他の法律又は条約の規定による免除)

消費税法二条一項一二号、三〇条、五八条等において、他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるものを除く旨の規定があり、これは、他の法律である古物営業法に該当する古物は課税物品から除く趣旨である。また、他の法律である刑法、貨幣法、伝染病予防法、割賦販売法、遺失物法、質屋営業法にも古物に関する規定がある。

7  (第一種の物品と第二種の物品の関係)

昭和二一年八月三〇日法律第一四号の物品税法一部改正では、第一種の物品(小売課税)の納税義務者(小売業者)と第二種の物品(製造場移出課税)の納税義務者(製造業者)を統一し、書画・骨董品を除き、すべての課税物品を製造場移出課税方式に改正し、その後昭和二八年五月三〇日法律第四一号の物品税法一部改正で一部を第一種の物品として小売課税に戻した。そして、古物の製造ということは考えられないから、古物には製造場移出課税はなく、また、どちらで課税しても同じであるからこそ、小売課税から製造場移出課税に変更できるのであり、第一種の物品に書画・骨董品以外の古物は含まれない。なお、書画・骨董品は昭和三七年に不課税物品とされている。

8  (古物の記帳義務)

物品税法一六条は、第一種・第二種の物品の製造者又は販売者の帳簿記載及び申告義務について定めているが、同法施行令五二条四項は、課税物品の販売業者の記帳義務について、古物を除外している。

9  (物品税法経過措置の規定等)

昭和二八年五月三〇日法律第四一号(物品税法一部改正)施行規則昭和二八年政令第一〇一号の附則五項には、「前項の申告にかかる物品(この政令施行後小売された後販売業者が取得したものを除く。以下「申告物件」という。)」と規定し、その後の改正時も同趣旨の規定がある。これは、古物は不課税だから免税の申告済みである書類を作成交付する義務はないという意味で、申告物件から古物を除外している趣旨に解すべきである。なお、同附則七項は「申告物件をこの政令施行後最初に小売した場合」に申告すれば物品税を免除する旨定めるが、これは、同附則六項の届出を失念した場合は、二度目の申告は無効であり、物品税を課税すると念を押した規定である。

五  (原告の主張する損害)

1  本件営業に関する昭和四九年七月分ないし昭和五一年一一月分の物品税として、昭和六〇年六月から同年八月にかけて納付した合計五二〇万円及び昭和五二年七月分ないし昭和五六年八月分の物品税として平成元年九月八日に納付した一四〇〇万円(納付金額には争いがない。)。

2  古物市場では消費税分を預けなければ古物の購入ができないとの業者間の取決めであるため、平成元年四月から平成二年四月にかけて、古物市場主に対し、消費税分として預けた合計九六万六四一九円。

3  原告が、昭和五八年六月三〇日に古物である万延大判を、昭和六〇年六月六日に古物であるたぬきの敷物外一点をそれぞれ購入した際、物品税分として取引の相手方に支払った合計七万一〇七〇円。

4  原告が、平成元年四月四日に古物である白金ペンダント外二点を、同月八日に古物であるセイコー社製男物時計を、同月二一日に古物であるセイコー社製女物時計を、同年五月一五日に古物であるキャノン社製カメラ及び付属品を平成二年四月三日に古物であるカメラ(ライカ・フレックス)用ケースをそれぞれ購入した際、消費税分として取引の相手方に支払った合計八一九一円。

5  前記国家公務員が原告らに対し、昭和三四年一〇月から現在まで、課税・滞納処分や物品税を逋脱したとして犯罪者扱いし、刑事処分、課税についての交渉に際し土地家屋を差押え公売すると脅して納付させる等して、原告らの名誉を毀損したことにより被った精神的損害や本件に係るストレスのため、静子は脳梗塞となり、原告は心筋梗塞となる等の肉体的損害をも受け、かつ、罰金刑を受けた。さらに、原告らの家族の縁談に支障が生ずる等の社会的損害のほか、本件営業につき昭和四二年三月分から四九年六月分の自主申告して納税した約一〇〇〇万円についての利子等に関する損害、西成税務署職員により本件営業の仕入れ先に対する反面調査がなされたこと等により、得意先が減少して、原告らの営業が不振になった。さらに、古物市場に消費税を支払わなければ仕入れできない等の経済的損害を負い、前記各裁判で四回にわたり最高裁判所まで提訴した裁判費用、弁護士及び相談者に対する諸経費、各関係官庁へ出頭する経費の支出を余儀なくされ、かつ、その都度心理的圧迫等をも受けた。原告の受けた右損害についての慰謝料二億円。

六  (争点)

1  物品税法三条一項、消費税法四条一項等により古物も課税対象に該当するか、あるいは、古物については、これを課税対象にする旨の法条がないから、古物に対する課税は違法であるか否か。

2  原告主張の損害について、本件営業は、静子名義であるが、実質的な主体は原告であるから、本件営業に伴い納税ないし支払った物品税・消費税につき、原告が返還請求権を有するか、あるいは、本件営業についての納税者は静子であることにより、原告には返還請求権が存しないか。

第三争点についての判断

一  (課税処分等の適法性について)

1  まず、原告主張の違法行為のうち、原告らが従来の訴訟(第二の三の1、2、4及び5)において争った各課税処分については、訴訟手続を経て、いずれも適法であることが確定しているのであるから、これらの処分による原告主張の損害(第二の五の1及び5のうちこれらの処分に関する部分)については、もはや国家賠償法に基づく責任を論ずる余地はない。

2  次に原告主張のその余の課税処分等の違法性判断の前提として、古物に対する物品税・消費税の課税根拠の有無についての原告の主張の当否について、以下検討する。

二  (古物についての物品税・消費税の課税根拠の有無について)

1  (租税法律主義について)

(一) 原告は、古物に物品税を課税する旨定めた法律がない旨主張するが、古物とは、一度使用された物品若しくは使用されない物品で使用のために取引されたもの等であり(古物営業法一条一項)、第一種の物品が一度使用されること等により当然に第一種の物品でなくなるものではないから、古物を課税対象から除く明文又は解釈上の根拠がない限り、前記物品税法三条一項の法文から古物を除外することはできない。

そして、後記のように古物を課税対象から除く明文又は解釈上の理由は認められないから、物品税法三条一項の「第一種の物品の販売業者」の中には、古物商も含まれ、同項の「小売」の中には、古物を消費者に販売する場合も含まれるものと解すべきである。そして、古物商が、消費者に対し古物たる第一種の物品を販売した場合には、他の課税要件を満たすかぎり、物品税の課税を免れることはできない(最高裁判所昭和四四年(行ツ)第七三号昭和四七年一二月一九日第三小法廷判決・乙一の3)。したがって、古物に物品税が課税されることは、物品税法三条一項に規定されていると解されるから租税法律主義違反の主張は失当である。

(二) また、消費税法二条一項九号、四条一項、五条一項により、資産の譲渡等のうち、同法六条一項により消費税を課さないもの以外は課税の対象となる旨定められており、後記のように古物を課税対象から除く明文又は解釈上の理由は認められないから、古物の譲渡に消費税が課税されることは、消費税法上規定されていると解され、租税法律主義違反の主張は失当である。

2  (物品税等の制度趣旨ついて)

原告は、物品税が創設された昭和一二年の北支事件特別税法の審議に当たり、北支事件特別税法案委員会で「一回限り」の課税である旨の答弁があったことを根拠とするが、右委員会の質疑の内容(甲四)から見て、右答弁の意味するところは、製造場移出時と小売時の双方に課税することはしないとの趣旨であり、これは、一つの消費活動に向けての一連の行為で二回課税することはしないことを指すに止まるから、同一の物について複数の消費活動が観念できる場合に、それぞれの消費活動に直結する小売行為について再度課税ができるか否かについて論じたものではないと言わざるを得ない。

そして、物品税及び消費税は、その本質上、消費という事実に示された担税力に応じて課税するものであるから、使用消費に繋がる小売等の機会があれば、何回繰り返されようとその都度課税されるのが当然であり、異なる消費活動につき、消費のたびごとに課税しても、二重課税というには当たらない。

したがって、少なくとも右答弁をもって、物品税法及び消費税法の立法趣旨により古物を課税対象から除く根拠とはできない。

3  (物品税廃止に伴う経過措置について)

消費税法附則二三条は、物品税廃止に伴う税額調整のため、課税済流通在庫についての戻入控除を認めるが、これも、一つの消費活動に向けての一連の行為で二回課税することはしないというに止まり、同一の物について複数の消費活動が観念できる場合に、そのそれぞれの消費活動に直結する小売行為について再度課税ができないことの根拠となるものではない。

4  (課税物品に関する規定について)

原告は、物品税法三条一項括弧書の「課税物品に該当するものに限る。」との規定を根拠とするが、課税物品とは、物品税法二条により、同法別表の物品のうち、同法九条の規定により政令で物品税を課さないものとされるもの(同法施行令六条、施行令別表三、四)以外の物品である。

原告は、古物は「別表に掲げる物品以外の物品」に該当すると主張するが、同法別表ないし同法九条の規定の文言上、古物であるか否かにより適用に差異が生ずるものではないから、右規定が古物を課税対象から除く根拠であると解することはできない。

なお、物品税法一六条一項、二一条一項、二四条等において、各法条所定の非課税物品扱いを、古物についてはしない趣旨を括弧書で明らかにしているが、仮に古物が同法の定める課税物品に当たらないとすれば、右括弧書の規定は必要ないことになるから、原告の主張とは逆にこれらの規定からも古物が物品税法上課税物品として取り扱われていることが明らかである。

5  (小売業者に関する規定について)

原告は、物品税の納税義務者である第一種物品の小売業者の解釈について物品税法上販売業者証明書の交付を受け、また、営業開廃につき申告義務を定められた小売業者であり、許可制である古物商は該当しない旨主張する趣旨と考えられる。しかし、物品税法上の小売業者であるからといって古物という許可業種の取引ができるわけではないとしても、逆に許可業種であることが物品税法上の小売業者から除外する理由になるものでもない。

6  (他の法律又は条約の規定による免除について)

原告は、消費税法二条一項一二号で「課税仕入れ」の定義につき、「他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるもの」を除外する規定及び同法上類似の除外規定を引用して、右の他の法律に古物営業法等が該当する旨主張する。しかし、古物営業法をはじめ原告の主張する各法律の古物に関する規定は、いずれも課税の免除を定めるものでないことは勿論、税に関係する規定ではないから、消費税法二条一項一二号等に定める他の法律の規定に該当しないことは明らかである。

7  (第一種の物品と第二種の物品の関係について)

原告は、物品税法改正の経過をみれば、ひとしく古物でありながら、小売課税方式と製造場移出課税方式で課税対象になるか否かが異なるような解釈は許されない旨主張する。

しかし、小売課税方式と製造場移出課税方式は、課税技術上の手段方式の相違に過ぎず、物品税の本質に差異をきたすものではないから、その時点の社会経済状態に応じて、両方式を使い分ける結果、製造場移出課税方式をとる場合に古物には多くの場合課税原因が生じないとしても、小売課税方式をとる場合に課税原因が生じないとする根拠にはならない。また、法律改正により、小売課税方式に課税段階が変更され、その結果として課税の対象範囲に差異が生ずるとしても、それは課税時期の違いに由来する事実上の効果であって、税の新設とは言えず、そのような事実上の課税範囲の変化につき、古物を含む旨等を特に明示する必要のないことも明らかであるから、原告主張の改正の経過は、古物を課税対象から除く根拠とはできない。

8  (古物の記帳義務について)

原告は、物品税法施行令五二条四項の課税物品の販売業者の記帳義務について、古物は除外されている旨主張するが、同項の文言上、買受人に関する事項の記帳義務について、古物については記帳義務がある旨定められているのであって、原告の主張は失当である。

なお、もしも、古物が常に課税物品から除外されているとすると、課税原因たる小売を捕促する必要はなく、したがって買受人に関する事項を記帳する必要はないはずであるから、この規定は、古物が課税物品であることを前提として古物営業法一七条の記帳義務をこの施行令により排除することのないようにする趣旨である。

9  (物品税法経過措置の規定等について)

昭和二八年政令第一〇一号附則の経過措置は、製造場移出課税から小売課税に移行した結果、過渡的事態として、製造場移出時に課税済みの第一種物品を販売業者が小売のために所持する場合につき調整する規定であり、同政令施行後に小売され、その後で販売業者が取得した場合、その物が申告物件から除かれるのは経過措置の趣旨から当然のことであって、古物であるが故に除外するものではない。もし、右規定が古物であるが故に除外するものとすれば、「政令施行後」は不要であり、また、経過措置として規定する内容ではないから、原告の主張は失当である。

なお、同附則七項は、同附則四項の申告物件を右政令施行後最初に小売した場合に限って、同附則六項の申告をしたときは、特に物品税が免除されることを明示したもので、最初に小売した場合に免除する旨定めているのは、小売が一つの物品につき数回ありうることを予定している。

三  以上によれば、古物についても、他の課税要件を満たす限り、物品税・消費税の課税対象となることは明らかであり、原告の主張はいずれも失当である。

したがって、原告主張の西成税務署長らの課税処分等、並びに、原告らに対する刑事処分及び静子提起の前記各行政訴訟に関与した各国家公務員の職務行為については、いずれも憲法八四条等に反する違法がないものと判断される。

そして、原告が第二の三の課税処分ないしこれに対する不服申立ての過程における西成税務署員らの原告に対する対応を非難する点も、結局、古物が物品税の課税対象にならないことを前提とする原告の独自の見解による非難に過ぎないものと認められ、到底憲法一四条等に違反する措置であると認めることもできない。

そうすると、原告主張の損害の有無等について検討するまでもなく、被告に国家賠償責任を認めるべき違法の事情は存しないというべきである。

(裁判長裁判官 伊東正彦 裁判官 倉田慎也 裁判官 齊木稔久)

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